スタッフN村による着物コラム

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庭の金木犀が咲いたので、部屋に飾ろうと思っていたら、あっという間に満開になってしまいました。

こうなってしまうとあとは散るばかりなので、写真に収めてスマホの待受画面に。スマホを開くたびにいい香りがしてきそうです。

しかし、金木犀ってある日突然香りがして、気がつくと満開になっていたりしませんか?

蕾の時のほうが香りが強いような気がします。そして、遠くまで香りが届くので、街中なんかだとどこで咲いてるんだろうときょろきょろしちゃいます。

この香りがすると、ああ、本格的に秋だなあ、と感じますね。

 

73. 文楽『良弁杉由来』鑑賞

久しぶりの文楽です。今回は夜の部の『夏祭浪花鑑』のほうが魅力的だったんですが、家庭の事情で昼の部限定。演目は選択の余地なし。

しかし文楽では見たことのない演目(歌舞伎では見た)だったので、演目コレクションは増えるから良しとしましょう。

久しぶりに着物で出かけました。9月半ばということで、単の塩沢にしようと思ったのですが、夜には雨の予報。

シボのある塩沢は雨に弱いので、やむを得ず、リサイクルで買った紬に綿イカットの帯にしました。これなら雨に濡れても惜しくない。

帯はアジア雑貨屋で見つけた布を京都の角間さんで二部式に仕立ててもらったもの。帯留めは韓国で買った刺繍のブローチです。

雨に弱い単アイテムは他にも京お召を一枚持ってますが、確実に一日中晴れの日しか出番がありません。そこではたと気づいたこと。

単の時期は6月と9月。一年で最も雨の多い時期ではありませんか。雨に弱い単って、持ってても意味がない! 道理で木綿ばっかり着てるわけだ…。

これから絹の単を買おうと思うあなた! ぜひ大島とか結城とか、丈夫で雨に強いものにすべきです。高価ですが結果的にお得です!

てなことを考えながら電車に揺られてやっとの思いで半蔵門の駅に着くと、すでに開演から45分も過ぎており、通しの半分は終わりかけてました。

2幕目が終わるまでロビーで待っていたら、技芸員さんとスタッフの人が北海道大地震のための募金の準備を始めていました。

写真はまだお客さんが出てくる前で、決して誰も募金に応じなかったわけじゃありません、念のため(笑)。

大夫と人形遣いがおかめ人形を操りながら募金を呼びかけてました。混んでいたので、次の幕間で協力しようと思ったらもうやってなかった。ごめんなさい。

さて、『良弁杉由来』です。官家の旧臣・水無瀬左近の未亡人・渚の方。夫の忘れ形見の光丸の成長を楽しみに近江国は志賀の里で暮らしている。

ある日乳母や侍女とともに茶摘みに興じるさなか、比叡の山から一陣の突風が吹き下ろし、一羽の大鷲が光丸をさらって飛び去っていった。

あまりのことに渚の方は狂乱し、侍女たちの精子も振り切って、我が子を求めてあてどなくさまよい歩く。

そして我が子の行方は知れぬまま三十年。大坂は大江の岸辺の桜の宮、花見客相手の出店で賑わう中、変わり果てた姿の渚の方が現れる。

子どもたちに嬲られる狂女を憐れみ、里人が身の上を尋ねるが、わけのわからぬことをつぶやくばかり。

しかし川面に映る姿にふっと正気を取り戻し、我が身の浅ましさを恥じる渚の方は、志賀の里へ帰り出家しようと、上りの船に便乗する。

その船中で、東大寺の良弁僧正が、幼い時鷲にさらわれて東大寺に拾われ、今は成人して大学者となったという噂を耳にする。

渚の方は枚方浦で船を乗り換え、急ぎ奈良へと向かう。

はい、ここまで見てません。一番華やかな「桜の宮物狂いの段」を見逃しました。この先は舞台上に老婆と坊主しか出てきません。地味〜。

さてどうにか東大寺の門前にたどり着いた渚の方、壮麗な大門に気後れし、どうやって良弁僧正に取り次いでもらおうかと思いあぐねてうろうろ。

折しも門内から急ぎ足で出てくる一人の伴僧、嬉しやと駆け寄り渚の方は卒爾ながらと声を掛ける。

お上人の使いで四条まで急ぎの用だと行き過ぎようとする僧の袖を捉え、我が身の上を語り、当寺の上人様のご素性をお聞かせくださいとかき口説く。

みすぼらしい老女の必死の訴えに耳を傾けた伴僧、確かに老女の話はお上人様の身の上と一致する、

しかし多くの人にかしずかれているお上人様、自分などではなかなかおそばに近寄ることもできない、さてどうしたものかと一生懸命考え始める。

そうだ、と手を打ち、お上人様はお役目で毎日春日大社にご礼拝、その帰路には必ず二月堂の杉の木をお参りされる。

その杉の木こそ上人をさらった鷲が留まり、先僧正がお助けした場所。そこへ今の話を書いた紙を貼っておけばきっとお目に留まるとアドバイス。

でも紙も筆もないし、としょげる渚の方に伴僧は矢立と紙を取り出してさらさらと代書してくれる。渚の方は嬉々として二月堂へと向かう。

ここまでが「東大寺の段」です。舞台上にはぼろをまとった老婆と黒い僧衣の坊さんの二人だけ。ま、老婆を遣うのは人間国宝の吉田和生さんですが。

しかしこの坊さんが実に親切でいいやつなんだ。急いでいると言いながら乞食のような婆さんの話を熱心に聞いてやり、

どうすれば上人にコネクトできるか、一生懸命考えて、そしてこれは妙案と自画自賛しながら貼り紙の代筆までしてくれる。

去り際には自分が書いたことはナイショねと口止めして、まあこれは保身のためかもしれないけど、袖擦り合うも他生の縁と言ってさっさと行ってしまう。

せかせかとコミカルに語るのは若手の靖太夫。伴僧のキャラクターが気に入って、なんだかこの場が今日一番印象に残ってしまいました。

続いて「二月堂の段」。お供を大勢引き連れた良弁僧正、二月堂前の杉の木に足を止め、三十年の来し方を思い、父母はどこでどうしているかと涙にくれる。

その時杉の木に貼られた紙に目を留め、読めば身に覚えのあること、誰が貼ったかと周囲を探させ、渚の方を見つけ出す。

問われるままに三十年前の出来事を語り、たまたま僧正の身の上を耳にして、もしやと思って訪ねてきたという渚の方の話に僧正も身につまされる。

なにか証となるものを子供の身につけておかなかったかという僧正の問に、身悶えしながらようやく思い出したのは守り袋に入れた家伝の観音像。

もしやこれかと僧正が肌身離さずつけている守り袋を取り出すと、まさしく亡き夫が手ずから縫った品、そんならあなたが、そもじがとひしと抱き合う母子。

僧正は母の苦労も知らず、人々にかしずかれ、何不自由なく暮らしている不孝を詫び、故郷の志賀に寺を建て、石山寺と名付けようと言う。

ならば私は故郷へ帰って出家して、夫の菩提を弔うと言う母に、せめて今しばらく孝行をと、僧正は自分の輿に母を乗せ、付き従って二月堂をあとにする。

はい、こういうお話です。ここがクライマックスとはいえ、そうなるだろうなと思う通りに話が進み、舞台の上は坊主いっぱいに婆さん一人。

せっかく吉田玉男が遣う良弁僧正もほとんど動かず、婆さんが一人で悶え苦しんでいるのでなんだか目がヒマ()で、床に目をやると千歳太夫のすごい顔芸。

まんまる坊主頭(床も坊主か!)にでっぷりした体格の千歳太夫は、中堅どころですが声も太く口跡明瞭、なんといっても顔の表情がじつに賑やか。

思わずそっちに目が釘付け。おっと、顔芸だけじゃなく、さっきの靖太夫に比べると、太い胴体に響く低音部が素晴らしい。

高音部の絶叫についつい拍手が来がちな義太夫ですが、地の語りのゆったりとした重低音が出せて初めて説得力を持つんだなあと、改めて感じ入った次第。

 

続いては『増補忠臣蔵 本蔵下屋敷の段』。星の数ほどある『仮名手本忠臣蔵』のスピンアウトのひとつで、主に「九段目」が下敷きとなっています。

高師直にいびられて、あいつを斬る! と息巻く主君・桃井若狭之助のために師直に賄賂を贈って事なきを得た家老の加古川本蔵。

しかしとばっちりで師直の矛先は塩冶判官に向かい、判官は師直に斬りかかり、身は切腹お家は断絶。

しかも判官の刃傷の際、羽交い締めにして押し留めたのはたまたま居合わせた本蔵で、師直はまんまと逃げ延びた。

桃井家は無事に済んだが、本蔵は賄賂のせいでへつらい武士と世間に嘲られ、塩冶家中からは恨みを買う。

本草の娘・小浪は、塩冶家家老大星由良之助の嫡男・力弥の許嫁だが、この婚姻ももはや難しくなっている、と、ここまでは本文にも書かれている話。

以下、スピンアウトの始まりです。賄賂の件で主君の不興を買った本蔵は、浅草にある下屋敷で蟄居中。

若狭之助の妹・三千歳姫がこの屋敷に預けられている。姫は塩冶判官の弟・縫之助の許嫁だがこの度の事件で破談となり、毎日泣き暮らしている。

そこへ若狭之助がお忍びでやって来る。近習の井波伴左衛門も続いて現れる。

伴左衛門は姫に横恋慕していて、それを邪魔する本蔵と、主君までも殺してしまおうと茶釜の湯に毒を仕込むが、しっかりそれを本蔵が目撃していた。

伴左衛門は姫に口説きかかるがまたも本蔵が邪魔をする。その時主君から本蔵を成敗するので縄打って奥庭に引き出せと命が下る。

太刀取り役の伴左衛門、ここぞとばかりに本蔵に悪態をつくが、本蔵騒がず、命を惜しまぬ覚悟を示す。

しかし茶釜のことだけは言い残そうとする本蔵を伴左衛門が遮るが、若狭之助、抜いた刀で伴左衛門の首を切り落とす。

返す刀で本蔵の縄を切り放ち、永の暇を言い渡す。本蔵がわざわざ由良之助に討たれに行き、娘の婚礼を整えたいと願っているのを主君は知っていたのだ。

若狭之助は本蔵の働きで桃井家が守られたことを感謝し、未来で忠義を果たしてくれよと告げる。

本蔵は最後のご奉公と、毒入りの湯を鉢植えにあけさせるとたちまち萎れ、伴左衛門の悪巧みが顕れる。

主君は餞別として虚無僧の衣装一式と、由良之助が望む高家の屋敷の図面を与え、本蔵は喜んで出立しようとする。

その時三千歳姫が暇乞いの名残に弾く琴の音が聞こえ、本草も尺八を吹き合わせる。そして主君に別れを告げ、大星家の住む山科へと旅立つ。

どうです、くっだらないでしょう? 所詮増補は増補、スピンアウトが本文を超えるケースはほとんどないという証拠のような話。

本文の四段目までと九段目のエピソードを無理やりつなげて、登場人物は九段目で起きることをすへて予知しているエスパー。

そもそも九段目自体、なぜか本蔵が虚無僧姿で現れて大星家にインネンをつけ、わざわざ力弥に刺し殺され、なぜか高家の図面を渡すという無理筋。

その「なぜか」はこういうことだったんですよー、というのがこの「増補」なんだけど、あーそーゆーことだったのねーというザンネンな種明かし。

本文に関係ない人物も文楽お決まりパターンで出てきて、またそのやることなすことバカバカしい。

たかが小大名の家老ごときに下屋敷なんぞあるかい。鉢植えに熱湯かけたら毒入りじゃなくても萎れるわい。

こんなつまらん話ならこっちを先にやってくれれば、良弁杉を全部見られたのに。アンケートにそう書いてやりました。

しかしそうもいかないのは出演者の格がこっちのほうが上だから。前半が呂大夫、後半が咲大夫。それならもちっとマシな曲を選んでほしいわ。

呂太夫は前名の英大夫の時からあまり興味が無いのでおいといて、咲大夫が出てきたらあんまり痩せてるのでちょっとギョッとした。大丈夫か?

なんだか病気したように聞いていたし、ここんとこ大夫の不幸が相次いでいるので心配したけど、第一声を聞いて安心。

すごいよく通る声で、以前より口跡も明瞭に聞こえる(国宝目前の人にエラソーにすいません。だって以前はモゴモゴして聞き取りにくかったんだもん)。

そしてやっぱり低音部。小柄な呂太夫に比べると体格のいい咲大夫、重低音の響きが心地よい。

今度から義太夫は低音部の響きに注意して聞いてみようと思います。いや、演目がつまらなくても、なんかしら発見はあるもんですね(苦笑)。

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