スタッフN村による着物コラム

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連日の猛暑の中、皆様いかがお過ごしでしょうか。いつまで続くかわからない緊急事態宣言の中、我が家はちょっとしたカルチャーセンターと化しています。

一緒に茶摘みをした友人が、浴衣くらい自分で着られるようになりたいと言うので、私のなんちゃって手抜き着付けを教えてあげました。

 

カンのいい友人はすぐにマスターし、その勢いで和裁を習い始めて今浴衣を縫っています。すごいフットワーク(笑)。

お返しというのでもないけど、その友人がクラフトテープ籠作りを教えてくれることに。もう一人の友人とわが姉も集まり、わいわいと始めました。

こういうことは大いに苦手で、作ってもらう専門の私もなんとか一つ編み上げました。私以外の三人は早くも次回作の構想を練っています。

涼しくなったら、袷にお太鼓の着付け教室、こっちは私が僭越ながら教える側です。こんなことやってる間に、コロナ禍が終息してくれることを願いつつ。

 

97. 緊急事態宣言下の落語会(上)

4月、5月と見に行くはずの公演が中止。6月にはコロナ禍も下火になっているだろうと、3月に二枚もチケット買ってしまいました。

ところがどっこい、緊急事態宣言は解除どころか延長、しかしオリンピックはやりますという中、今回の宣言では落語会は中止にはなりません。

まずは611日、立川のたましんRISURU小ホールで、桃月庵白酒と鈴々舎馬るこ二人会。こちらは14時開演でした。

今や人気若手実力派の白酒も、立川あたりではまだ小ホールか(笑)。相方の馬るこは私は初見。

250人ほどのホールでディスタンス席だから、完売御礼は出ているとはいえ観客は120人そこそこ。これでちゃんとギャラが出るのかと心配になります。

 

開口一番は立川縄四楼で『道灌』、談四楼の弟子なんだろうが、ちょっと久々にひどい道灌を聴いてしまった(笑)。

香盤(落語界の順位表、真打ちに昇進した順番)では馬るこより白酒のほうが上ですが、このあとの仕事があるようで、先に白酒が高座に上がります。

白酒は冬に新型コロナウィルスに感染して入院し、その体験をSNSで発信したり、ネット配信で闘病体験を話したりしていました。

入院中、髪と髭が伸びた顔は阪大の忽那賢志先生にそっくりだと話題になり、私の仲間内ではひそかに白酒をくつ王(忽那先生のブログ名)と呼んでいます。

その時少し痩せたそうですが、高座姿はすっかりもとの福々しさを取り戻し、声も明晰な口跡も元通りで安心しました。

マクラは当然コロナ関連になりますが、新宿末廣亭界隈ではどうやら緊急事態宣言は解除になってるみたいで、そこらじゅうで飲み屋が繁盛してるだの、

入院したのは中等症の六人部屋なんだが、同室が爺さんばかりで、うるさくて眠れないだの、いい声と端正な口調で毒舌を吐きまくります。

一之輔の乱暴な口調で吐く毒舌と違い、白酒のは耳障りが良いだけに、余計に腹黒いかもしれない(笑)。

噺のほうは『化け物使い』。おっそろしく人使いの荒いご隠居、奉公人が次々と辞めてしまい、口入れ屋では「あそこには絶対行くな」と悪評サクサク。

しかし何が良かったのか不思議と居着いた久蔵は、ご隠居の無理無体な要求に三年応え続けたが、ご隠居が化け物の出る屋敷に引っ越すと聞いて暇を取る。

人使いの荒いのには耐えられても、化け物屋敷に住むのは耐えられないというのである。ああそうですか、結構ですよと久蔵に暇を出したご隠居、

その晩早速現れた一つ目小僧をこき使い、明日はお使いを頼むから昼間出てこいなどと無理を言う。

翌晩現れた大入道には台所仕事や庭の石灯籠を直させて、口入れ屋に人を頼むより、化け物のほうがよっぽど役に立つとうそぶく始末。

三日目の晩に正体を現した狸が現れて、涙ながらにどうかお暇をくださいと言う。「こちら様のように化け物使いが荒くちゃ、どうにも辛抱が成りかねます」

人だろうが化け物だろうが、そこにいれば使い倒す、ある種豪胆とさえ言えるご隠居ですが、辞めていく久蔵の指摘がおかしい。

品川へ行ったついでに千住へ回れ(ついでかそれ?)とか、豆腐を買ってくれば次はがんもどき、戻ってくれば油揚げを買ってこいとか、

ご隠居様の言いつけは無駄が多すぎる、そんなんじゃあだーれも居着くわけがねえですよ、理路整然と説教をして去っていく。

挙げ句の果てに化け物にまで暇を取られてしまうご隠居、久蔵がそれみたことかとあきれていそうです。

白酒のいい声とはきはきした口調でツケツケと命じられると、狸でなくても音を上げそう。

 

続いて二人のトークコーナー。客席からあらかじめ書面で質問を募っていたのですが、一番多いのが、なんで二人ともそんなに太ってるのかという質問。

馬るこは師匠の女将さんが料理上手で、山のように出してくれる料理を食べていたからだと言います。馬るこの師匠は鈴々舎馬風。

豪快な芸風の新作派で、馬風の前は柳家かゑるという名で、けっこうタレント的に活躍してた人です。

白酒は「なんで馬風師匠に入門しようと思うかねえ」とまた毒舌。白酒の師匠は正統派江戸前の五街道雲助です。

客はよくわかっているので、白酒の師匠のモノマネに、笑いと拍手。そこから前座修行時代の話になり、寄席でのさまざまなエピソードを紹介。

楽しい話がたくさんあったんですが、細かいところ思い出せなくてごめんなさい(笑)。トークコーナーのあとは馬るこの『小言幸兵衛』です。

 

口うるさい家主の幸兵衛さん、今朝も長屋中に小言を言って回ったところに、えらく口の悪い男が、貸家の貼り紙を見たとやって来る。

豆腐屋だという男の口のききようにさんざん難癖をつけた挙げ句、お前さんのような者に家は貸せませんよと追い返す。

次にやってきたのはやたらと腰の低い仕立て屋。物の言いよう、仕事、家族構成、気を良くした幸兵衛だが、仕立て屋の一人息子の話を聞いて態度が一変。

年は二十歳で親勝りの腕で、二枚目で、物堅い息子だというのに、お前さん一家が越してきたら、アタシの長屋で心中事件が起きるという。

ここから幸兵衛さんの妄想が爆発、向かいの古着屋の娘・お花が息子にお針を習ううちに恋仲になり、娘のお腹が膨らむも、一人っ子同士一緒になれない、

世をはかなんで二人は心中、だからお前さんには貸せないと言う。普通の小言幸兵衛はここで仕立て屋が諦め、次の借り手がくるのだが、ここからが違った。

では息子はよそへ修行に出して、夫婦二人で越してくると言うと、幸兵衛の妄想は更に飛躍、名うての肉食のお花が仕立て屋当人に言い寄り、

お腹が膨れて以下同、ということになる、だから貸せない。妄想の中でお花が仕立て屋親子に言い寄る描写がいかにも肉食女子で、場内爆笑。

さすがに諦めた仕立て屋が帰ると、幸兵衛はおかみさんに、アタシはお花のことが心配で言ってるんだと言い訳する。それを陰で聞いていたお花、

大家さん、私のことをそんなにも…と、なんと同じ手法で幸兵衛に言い寄る。こりゃ大変だ、アタシが長屋を出ていかなきゃならない、というサゲ。

こんな小言幸兵衛、聞いたことない(笑)。妄想爆発部分が大熱演で、今どきの落語だなあ、とおおいに笑わせてもらった一席でした。

 

緊急事態宣言下の落語会、続いて618日の喬太郎・三三二人会、と行きたいところですが、書きたいことが多くて長くなりそうです。

その上連日の猛暑で気力が続きません。申し訳ありませんが、本日はこれぎり、次回ご報告させていただきます。皆様どうぞご自愛ください。

 

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