スタッフN村による着物コラム

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お向かいの畑で、お向かいさんのお友達が藍の栽培を始めました。赤まんまのような花が咲き始め、そろそろ収穫の時期だそうです。

大河ドラマ『青天を衝け』の渋沢家みたいに、発酵させて藍玉を作るほどには量も設備もなく、深藍に染めることはできないとのことですが、

きれいな淡いブルーには染まるそうです。その方は別の畑で綿花の栽培もしていて、綿花から糸を引いて布を織り、それをこの藍で染めるんですと。

着尺までは無理でも、マフラーやストールは作れるそうです。作品ができたら見せていただけるので、またこちらでご紹介します。

それにしても、藍の花が赤まんまそっくりだということに、なんだかおかしみを感じてしまいますね。

 

98.緊急事態宣言下の落語会(中)

〽9月になったのに、いいことなんかありゃしねえ〜♪というのは、初期のRCサクセションの『9月になったのに』の歌いだしですが、

緊急事態宣言延長の最中にその宣言を出した首相が退陣するという、いよいよ混迷を極める今日このごろ、皆さんいかがお過ごしですか?

このタイトルも、前回は上、下で収めるつもりだったのですが、8月の落語会も、9月の落語会も宣言下になったので「中」になってしまいました。

今回は6月17日の杉並公会堂、喬太郎・三三の二人会。もう記憶もおぼろですが、この時も3回目の宣言延長されてたんじゃなかったかな。

19時開演という、昨今では考えられない遅い開演、都が定めた基準では21時までに客を出さなければいけないはずなんだけど、間に合うのかな?

そもそもこの会が、昨年中止になった会の振替公演で、チケットは満席で売られていたらしく(私は追加販売でゲット)、客席は八割方埋まっています。

ひとつおきに空席の市松模様に慣れてしまった身としては、両隣に知らない人が座っていることにとても緊張してしまいます。

この時はワクチン接種もまだだったので、近くの人の咳払いやくしゃみにもいちいち反応してしまい、なんだか落ち着きません。

これも都の基準に照らしてどうなのよ、と文句を言うならそもそも見に来なきゃいいわけで、人間そこは勝手なもんです(笑)。

開口一番は桃月庵あられ。白酒の弟子らしいけど、えらく達者な『まんじゅう怖い』。前座にしとくのはもったいないような芸と老け顔でした。

続いて喬太郎は、出てくるなり「ソーシャルディスタンスという概念がまったくない客席ですね」とかましてきました。

毎年この会場で、喬太郎・三三の会が行われていて、去年は一回目の緊急事態宣言で中止となり、今年に延期となったわけですが、

「今日が去年の振替ってことは、じゃあ今年の会は中止になった、ってことなんですかね」 

「前座のあられは毎回この会に客として来ていて落語家を志したと言ってたけど、それで入門したのが白酒のとこってどういうこと?」と笑わせて、

「コレクターもいろいろあるけど、実はアタシはすごいお宝を持ってるんです。なんと、人間国宝・先代柳家小さんの声が入った留守電テープ!」

先代小さんは喬太郎には大師匠(師匠の師匠)にあたり、前座時代は地方巡業のお供に呼ばれることがしばしばあったようで、

喬太郎がたまたま地方へでかけているときに奥さんからホテルに電話があり「あなた、大変! 大師匠から留守電に明日の巡業の予定の連絡が入ってた!」

喬太郎が慌てて大師匠宅に電話をすると、小さんは弟弟子の喬之助と間違えて電話をしてきたらしく、「悪かったな、あんちゃん」と謝ってくれた。

「でもそのテープ、消せないでしょう? 今でも大事に取ってあるんです」

ちなみに小さんのセリフ部分はすべて声色でやってました。

人間国宝がお付きの孫弟子に直接連絡を入れるということにも、あー落語の世界っていいなあと思いましたよ。

(聴いてからずいぶん時間が経っちゃったので、細部は少し違ってるかも。ご容赦ください)

というマクラから、噺は『初音の鼓』へ。骨董好きだが見る目のない殿様に、怪しげなものを売りつけている古道具屋が「初音の鼓」なるものを持ち込んだ。

歌舞伎『義経千本桜』に出てくる鼓で、ぽんと打つと側にいる者に狐が乗り移ってコンと鳴くという。

無論デタラメだが、道具屋は側用人の三太夫に袖の下を約束して一芝居うつ。しかし実は殿様はお見通しで…という、軽めのお話。

マクラが長かったので軽く仕上げた感じ。続いて高座に上がった三三、ぱらりと扇子を開き「植木屋さん、ご精が出ますなあ」。

マクラもなんにもなし。夏といえばこれ、いきなり『青菜』だ! 客席がちょっとざわついたくらいのいきなり攻撃。

『青菜』はここで何度もご紹介しているので、筋の説明は省きますが、師匠の小三治で何度も聴いてるこの噺、三三は若いだけにテンポよくスピーディ。

それでも『青菜』はフルで演るとそれなりに長いので、終わった時点で815分。それから15分の休憩あって、もう一席ずつ演るという。

おいおい、いったい終演は何時だよ、と思いつつ後半突入。今度は三三が上がり、普通にマクラから入った。

前座時代、故・古今亭志ん朝が三三の出囃子をえらく気に入って

「あんちゃん(落語界では師匠方が若い者をこう呼ぶ)、十年前座やらないか?

その代わり二つ目飛ばして真打ちにしてやるから」

と言われたんだが、丁重にお断りしたそうな。志ん朝がそこまで気に入るとは、さぞかしいい前座だったんだろな。

噺は『茄子娘』。田舎寺の和尚、茄子が大好きで、「大きくなったらわしの菜(さい)にしてやるぞ」と言いながらせっせと育てている。

ある夜、庵に若い娘が入ってきて「私は裏の畑の茄子です。大きくなったら妻(さい)にしてくださるとおっしゃったので」という。

菜と妻を間違えたかと、肩などもませているうちに、突然の雷雨、きゃーと抱きつく娘、そんなこんなでそんなことになったところで目が覚めた。

夢とはいえ出家の身にあるまじきことと、和尚は修行の旅に出る。七年ほど経って荒れ果てた寺に帰ると、小さな女の子が「お父ちゃん」とすがりつく。

聞けばあの茄子の精が身ごもって生んだ子だという。母はお屋敷におこうこう(お香香=奉公)に入っているという。

「そうか、一人でよく育ったな、親はナスとも子は育つ」がサゲ。日本昔ばなしみたいな他愛ない噺で、晩年の入船亭扇橋がこればかりやってたそうな。

入船亭一門以外でこれ演る人がいたのは驚いた。扇橋は三三の師匠・小三治の親友だったから、三三は扇橋に習ったのかな。

ちなみに入船亭扇橋は私の村の出身で、叔母の同級生で私の同級生の叔父さんです。以上余談(笑)。

さてトリは喬太郎。今度は自作の『路地裏の伝説』。父親の一周忌に実家に帰った男、地元の同級生が集まって発泡酒とチータラで飲み始める。

昔話で盛り上がり、話題は都市伝説に。「あったよな、口裂け女!」「なんちゃっておじさんとかな」と、我々同世代(ほぼ)にはうんうんとうなずける会話。

「そういや、町外れの寺の和尚が、茄子に子供産ませたって話もあったな」と、喬太郎得意の前ネタいじり出ました。

「いやー、ナスとはしないでしょ、ナースの間違いじゃねーの」で会場大爆笑。

三三が苦笑いしてたんじゃないかな。

そして、彼らが共有する都市伝説、「風邪引くなおじさん」。姿は小学生だが、すれちがいざまオッサンの声で小言を言い、振り向くと姿は消えている。

「あったあった、でもほんとに見たやついるのか?」…と、仲間の一人が青ざめて震えだし「俺…俺見たんだよ、風邪引くなおじさん…」

新作落語はサゲまで書いてしまうとお楽しみがなくなってしまうので、ここでやめておきます。ホラーっぽい展開ですが、最後はしんみり。

このお話、内容確認のために検索したら、子供向けの絵本にもなっているようです。あったかい、いい話だもんなと納得。

満席に近い客席に不安はありましたが、久々に万雷の拍手、というものを聞きました。やはりいいもんですね。

結局終演は21時を10分ほどオーバー。退場の人数制限もなく、感染対策といえばマスク着用のお願い、セルフもぎり、消毒用アルコールの設置くらい。

なんだかなあと思いながら外へ出るとドトールコーヒーすら閉店していて、まっすぐ帰宅しました。

内容には大満足、だけどイベントの感染対策はほんとに主催者や会場によってまちまち。愛知の音楽フェスを笑えないな、と忸怩たる気持ちも残りました。

満席の会場でマスクを外し、大手を振って笑い転げる日が一日も早く来ることを願ってやみません。

 

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